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短編小説「3年、30年」(2)
 ハン・チョルミョン:ハクソンさんが羨ましいな、スポーツだけが下手なら簡単に解決できるさ、でもこの俺はな。

 団子鼻をしたハン・チョルミョンは下唇を前に突き出して言葉を続けた。

 ハン・チョルミョン:俺は、小学校の時から勉強が駄目だった、まあ、凄い腕白小僧だった。そのうえ、父が将校だったので、引越しは数え切れないほどだった。中学校に上がっても勉強が面白くなかったんだよ、それが、卒業を控えてやっと正気に返ったけど」

 やや興奮気味でチョルミョンは首筋のところのボタンを外した。

 ハン・チョルミョン:覚悟を決めて取りかかったものの、もう手遅れだった。基礎知識が乏しくてな。まあ、過ぎ去ったことだからしようがないけどね。
 ハクソン:それで、チョルミョンさんは自ら進んで教員大学を志望したってわけですか。
 ハン・チョルミョン:もちろんさ、俺は教員になるつもりだ。軍隊にいたときも暇さえあれば勉強をした。後日、必ず教師になろうと思って、俺は教員になったら、俺みたいないたずら子を厳しくしつけようと思ってる、どうだい?俺の政治指導員も積極的に支持してくれた。
 チュンミン:入学試験はどうやってパスした?

 僕の問いにチョルミョンはにやりと笑った。周りを見回すと、秘密でも漏らすかのようにひそひそと話した。

 ハン・チョルミョン:ははは、それはな。
 戦友たちに助けてもらって、がむしゃらに勉強したさ。信じられないかも知れないけど、俺はさ、難解な数学の問題はその解法を丸暗記したんだ、まあ、頭のほうはそんなに悪くないようだ、ははは。

 太い指でこめかみを叩きながら、チョルミョンは大きく笑い出した。この日のために、彼と彼の戦友たちが傾けたであろう汗のにじむ努力について、少しは分かるような気がした。
 しばらく、沈黙が続いた。
 僕は僕に向けられた二人の視線に気づいた。
 僕が話す番なのだ。
 何を話せばいいだろう。大学の推薦と入学を前後したときにあったことが目の前に映画のシーンのように流れて行った。数回の談話、母の勧告。
 僕の口からは単純でありながら明白な答えが出たが、実際、それは極めて曖昧な答えでもあった。

 チュンミン:僕も教員になろうと思ってここに来た、それだけだよ。
 ハン・チョルミョン、ハクソン:そう?

 もっと詳しい話を聞きたがる二人の視線をわざとそらし、窓のほうへ、いや、実際は窓をはめ込むため穴の開けてあるほうへ顔を向けたとたん、僕はびっくりした。
 一人の娘が突っ立ってこちらに目をやっていた。身長は高くなく、真ん丸い顔に、やはり真ん丸い目をした、どこか見覚えのある娘だ。

 ハクソン:ソルミ姉さんじゃないの
 ハン・チョルミョン:誰、君の知り合いなのかい?

 ハン・チョルミョンが腰掛けていたブロックまで倒しながら、壁穴に近づいたとき、もう、彼女の小さい姿はさっさと遠ざかっていた。