朝鮮民話「恥をかいたきつね」
ところで招かれたけものたちは到着した順に席を占めたので、年に関係なくごっちゃまぜに座るようになりました。すると、けものたちのなかから苦情が出ました。
「盃をかわすにも、年寄りと若いのが一緒に座っていれば具合が悪い」
そこでけものたちは年の順に座りなおすことにしました。
このとき、招かれもしなかったキツネがすばしこく立ち上がって上座を占めようとしました。
「あつかましい奴だ。そこはお前の座るところじゃない」
年寄りのけものたちがキツネをたしなめました。するとキツネは口を大きくあけ、歯をむき出してほざきました。
「この世にわしほど長生きし、見聞の広いけものはいまい。わしは天の国、水の国とこの足の及ばないところなんぞありゃしない。月の世界の月桂樹にのぼり、その枝の数まで数えてみたのじゃ。どうかね、だれか月桂樹の枝の数を知っとる方がいなさるかね」
キツネは座中を見まわしましたが、誰も答える者がありません。
「ほれ、ごらんなさい。ここには、わしよりも年が多くて経歴をつんだ方はいますまい。ここで一番の年寄りはわしにきまっとる。オホン、キャン」
こうしてキツネは、けものたちを押しのけて上座に座りました。けものたちはキツネが憎かったのですが、口をつぐんでいるほかありません。キツネはそっくり返って、真っ先に盃を取り上げようとしました。
そのとき、どこからともなく悲しい泣き声が聞こえてきました。驚いて声のするほうを見ると、カメが短い首を伸ばして泣いているのです。
「縁起でもない。このめでたい日に場所柄もわきまえないとは、失礼にもほどがある。 さっさと出ていけ」
けものたちは怒って、口ぐちにカメを責め立てました。するとカメはおずおずと涙をぬぐいながら答えました。
「恐縮ですが、どうかわしの話を聞いてください。わしの息子が幼いころ月桂樹を2本取ってきて、あの原っぱに植えました。それが数千年も育ったころ、天が崩れるという噂が立ったのです。それでわしの息子は、月桂樹を切って天に昇り、それで星に柱を立てて天が崩れおちないように支えました。
それから木の枝で堤を築き、銀河の洪水を防いでいるうちに、つかれきって息たえたのです。
あれが亡くなってから、堤の木の枝から芽が吹き出して数千年も育ち、あんな大きな月桂樹になったのです。あの月の世界の月桂樹を見上げるたびに、亡くなった息子のことが思い出されて、つい泣き出してしまったのです」
けものたちは大きくうなずきました。
「そうだろうとも。この世にカメより年の多い生き物はいまいよ」
けものたちはキツネをとがめました。
「面の皮の厚いキツネめ、さっさとカメに席をゆずって消えうせろ」
けものたちをだまして上座に居座ろうとしたキツネは恥をかき、尻尾を巻いて逃げ出しました。
しかし、カメは上座に座ろうとしませんでした。
けものたちがカメに、遠慮なく上座に座るようにとすすめると、カメは言いました。
「実を言えば、あの悪賢いキツネを追い出して、ヤギさんの還暦を楽しくお祝いしようと、わしが芝居をうったのだよ」
「ハッハハハ、カメさんのおかげで還暦を楽しく祝えるようになりましたね」
けものたちはみなカメの知恵に感心しました。