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朝鮮民話「おろかな地主」
 むかし、あるところに自分がおろかであることを知らないで、いばってばかりいる地主がおりました。
 アヒルをたくさん飼っていても、それが何羽になるか知らないのです。
 ある日、そのアヒルが1羽、イタチにさらわれました。けれどもアヒルの世話をしている下男は、主人が数もかぞえられないので、1羽ぐらいなくなってもわかるまいと、気にもかけませんでした。
 ところが、その日の夕方のことです。
 「アヒルはちゃんといるだろうな」
 地主がやってきて、こうたずねました。
 「はい、それはもう、まちがいありません」
 下男は平気な顔をして答えました。
 すると地主は、アヒルを2羽ずつ合わせてみました。そして最後に1羽残ったのを見ると、真っ赤になって棒きれをふりまわしながらどなりました。
 「こいつ、わしをだますつもりだな。アヒルを1羽どうした?早くさがしてこい!」
 下男は地主の思いがけない知恵に驚きましたが、たいして心配しませんでした。
 あくる日、アヒルを1羽つぶして食べてしまった下男は、そしらぬ顔をして地主に言いました。
 「だんなさま、アヒルを見つけました。もう一度かぞえてみてください」
 「よし」
 地主はまたアヒルを2羽ずつ合わせてみました。こんどはちゃんとそろっているので、地主はうなずいて言いました。
 「うん、みなちゃんとそろっている」
 下男は心のなかでニヤッとしました。
 (やっぱり大変なばかもんだ。それなら毎日2羽ずつ食べてやれ。そしたら3年のつとめが終わるころは、わしもだいぶ太るだろうな)