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短編小説「百日の写真」(8)
 チュチェ113(2024)年 出版

 ソンオクの父のチェ・ボクマンがヨンジャン里に着いてみると、すでに結婚式は終わり、その家では遠いここまで訪ねてきたカメラマンに手厚い昼食をもてなしていた。
 歓待に酔いしれて長居でもしたら大変だと思ったチェ・ボクマンは無礼であること承知の上で、カメラマンの横に割り込んだ。
 「恐れ入りますが、実は、今日が一人娘の百日でしてね。これから写真を撮りに行ってもらえないでしょうか」
 「あーそうですか。百日も結婚式の日と同じように意義深い日ですからね。ご心配なく、写真を立派に撮って上げますから」
 「それを聞いてほっとしました。では、俺は外で待っていますから」
 「あ、せっかくいらしたんですから、一緒にしませんか。まあ、注いでいただいたこのお酒だけを飲み干してからすぐ行きましょう」
 チェ・ボクマンもカメラマンの補助役扱いされて貴賓だけを接待する席に招かれた。オクポ里から来たその家の姻戚の人が同席していたが、今日の結婚式に危うく遅れるところだったとそのわけを話していた。
 「うちの村で明日から道路工事が始まることになっておりましてね」
 「チャンソンがまた移り変わることになりますね。昔、金日成主席が村にいらして、牛の放牧地を定めるため、苦労して掻き分けた細い小道が今は、自動車やバスが自由に往来する舗装道路になりますからね」
 自分の村の移り変わりを自慢する話だったが、それを聞いたチェ・ボクマンは胸がどきんとする思いだった。その小道は余りにも険しいので、自動車どころか、牛車も通れない道だった。1963年、金日成主席は山村の人たちの暮らしをより豊かにするため、その道を歩んで、牛の放牧地を新しく定めたのだった。
 革命事績館には、オクポ里の牛の放牧地を訪れた主席の写真が掲げられている。しかし、主席が歩んだ険しい道程は解説係の説明だけで来場者に伝えられていた。
 (その日、主席が余りにも疲れて、小休止した平らな岩が小道の真ん中に残っていたが、もし工事を行うとなると・・・)
 チェ・ボクマンは不安に駆られて、その姻戚の人に聞いた。
 「道路を新しくつくると言う事ですが、それではあそこにある主席が小休止した平らな岩も無くなってしまうのですか」
 「さあ、そのことまでは分かりませんが」
 チェ・ボクマンは気が気でなかった。主席の革命活動にゆかりのある物の保存を担当しているものでありながら、そんな大切な露天の物件資料を予め写真に収めて置かなかったという罪意識に苛まれた。歌にもあるように、毎年、見違えるほど移り変わるチャンソンであるのだ。